第69章 夢世界
ふらふらと立ち上がりながら、ナイフを掲げてくるリナリー。
その後ろから、ゾロゾロと教団の連中も歩み寄ってくる。
「私達を捨てるの…?仲間じゃないっていうの…?」
…やめろよ。
リナリーの姿を借りて、んなこと言うんじゃねぇ。
「私達は紙の上のインクなんかじゃないッ!!」
堰を切ったように襲い掛かってくる教団の連中。
咄嗟に近くに落ちていたナイフを手に取ると、構えた。
───幻だ
───これは幻だ
「生き抜く術は叩き込んである。薙ぎ払え、"ラビ"」
ジジイの声が頭に響く。
「ッ…!」
「ぎゃあ!」
「げぇっ…!」
強く目を瞑って、近付く気配を薙ぎ払った。
───ここでは視覚は惑わされるだけだ
───目を捨てて冷静を保て!
「ぐぁあ!」
「何を…っ!」
「何をするんだラビィイ!!」
近付く気配を感じ取って、ただただ薙ぎ払っていく。
右に蹴り上げ、左に弾いて、上に顎を砕く。
瞑った目は何も映さない。
だけど耳に届くのは、教団の皆の悲鳴。
オレの知ってる奴らの、悲鳴。
「く…ッ」
くそ、聞くな…っ
声は全部無視しろ!
無視してこの場から離れろ!
じゃねぇとこの夢に呑まれちまう…!
"貴方方がブックマンの血筋の方ですね"
"ああ"
"ようこそ、黒の教団へ"
「っ──!」
頭の中に、強制的に流れ込んでくる映像。
これは…オレの過去の記憶…ッ?
"科学班室長のコムイ・リーです"
"儂が現ブックマンを名乗る者だ"
〝黒の教団〟
初めてそのログに踏み込んだオレとジジイを待っていたのは、大量の"死"だった。
通路の下に広がる大広間。
其処に並べられた夥しい数の棺。
葬儀中のそれはざっと見、百はいってそうな数。
棺に縋る人々の啜り泣く声。
生きてる方も怪我人だらけで、辺りを充満しているのは消毒液の臭い。
こりゃー…
"…負け戦だねぇ…"