第69章 夢世界
「"ラビ"、お前が何処へ行けるっていうんさ?ブックマンの跡継ぎとして、何処にも心を移さずに生きてきたお前に、戻る場所なんてある訳ないだろ?」
淡々ともう一人の"オレ"が言葉を投げ掛けてくる。
…んなもん、わかってら。
いちいち口に出して言うんじゃねぇよ。
「お前の"場所"。お前の心はこの世界の何処にもない。何者にも心を許さずただ傍観してきた者達の、それがふさわしい罰さ」
「…そんなこと、わかってら」
だからいちいち言うんじゃねぇって。
自分の立場なんて理解してる。
だから彼女の───…南への想いも、自覚してすぐに断ち切ったんだ。
オレはリーバーみたいに、南の隣を並んで歩くことはできないから。
同じ道を歩むことはできない。
だから…この想いをすぐに断ち切った。
───本当に?
「どうだか」
「お前は人と悪魔の内で心を毒されておる」
一瞬浮かんだ思いを確認する間もなく、目の前で薄い笑みを張り付ける"オレ"と"ジジイ"。
「昔のお前の隻眼は、そんな弱い光を灯してはいなかった」
「何知ったような口で言ってんさ…」
こいつは本当のジジイじゃない。
ロードが作り出した偽物だ。
こんなのただの─────
「───」
見えたのは、棺に寝かされて水の上に浮かぶリナリーの姿だった。
「リナ…!?」
なんでここに…ッ!
リナリーもロードの夢に呑まれたんさ…っ!?
「リナリ…ッ!」
咄嗟に小舟から飛び降りて、ザブンッと水に胸まで浸かる。
慌てて棺に寄って、リナリーの体を抱き上げた。
反応はない。
「どうした"ラビ"?」
後ろから"オレ"が呼びかけてくる。
「そんなのただの歴史の一部に過ぎないだろ?」
はっとする。
「──!」
いつの間にか胸まで浸かっていた水は消えていて、周りには沢山の棺が散乱していた。