第69章 夢世界
「っ…!」
「どうした"ラビ"?」
思わず小舟の台座から立ち上がる。
「忙しい奴だ、黙って座ってられんのか」
そう呆れた目を向けてくるジジイは、どこからどう見ても"ジジイ"だった。
オレの知ってる、ブックマンのジジイと何も変わらない。
だけど違う。
此処は…"これ"は、ロードが見せてる夢だ!
「オレの記憶を読みやがったな…」
落ち着けオレ、頭を整理しろ。
オレ達は江戸でリナリーが千年伯爵に攫われたのを追って、ノアの方舟に乗り込んだ。
その最上階で出くわしたロードと、オレは戦うことになって…そいつの"夢"に呑まれた。
そして今、"ここ"にいる。
「よくできてら…ッ」
目の前のジジイは本物のジジイじゃない。
恐らくオレの記憶を読み取って、ロードが作り出した幻だ。
「惑わされねぇぞ、オレは戻る」
ここから出て、リナリーとチャオジーを助けて。
それからアレンが相手してるティキ・ミックってノアも倒して。
この方舟から脱出して、戻らねぇと。
"おかえり"
そう笑顔でいつも迎えてくれていた、彼女の所に。
「"戻る"?何処へ?」
問い掛けてきた声は、ジジイのもんじゃなかった。
「"ラビ"が記録してる登場人物の所へか?」
ジジイの隣。
いつの間にいたのか、さも当たり前の顔して小舟の台座に座っている…もう一人の"オレ"。
「…出やがったな」
疑いようがない。
ロードが作り出した新たな幻だ。