第69章 夢世界
名前を呼ばれた気がした。
「……?」
振り返る。
誰もいない。
「………」
でも何か引っ掛かるもんがオレの中にあって、つい小舟の中で身を乗り出した。
「ラビ、」
誰だったっけな…何処かで聞いた声だったんだけど。
「ラビ!」
そうそう、そんなふうに呼んでた気がする。
キャピキャピした高い女子っぽい声でもなくて、大人な色気あるおねーさんみたいな声でもなくて。
"ラビ"
当たり前に紡いでくれるその声は、オレには気持ちの良い響きだった。
あれは…誰の声だったっけ…。
「…ディック」
「あ?」
なんさ?
ゴキンッ
「いってぇ~っ!?何すんさジジイ!」
名前を呼ばれて振り返れば、瞬時にジジイのパンダ鉄拳が落ちてきた。
それ結構痛いんだかんな!
つかいつもどっから出してんさ、そのパンダ手!
「黙れアホ!何をボケーッとしとるか!」
「は?」
「お前は今"ラビ"だろうが!」
「あ、前のログの名前で振り返っちゃった?」
「馬鹿モンが!!」
「わ、アップやめてキツイ!」
ずいっと顔を近付けて怒鳴るジジイに、はっとする。
やべ、また前のログでの名前で反応しちまった。
今のオレの名前は"ラビ"さ。
"ディック"って名前は捨てねぇと。
「集中しろ!次のログは今までみたいに甘くないぞ」
「えーっと…次のログって…?」
何処だったっけ。
「ヴァチカン直属対AKUMA軍事機関、"黒の教団"だ」
ポリポリと口元を指で掻きながらジジイの言葉を促せば、聞いた名に思わず手を止めた。
「我らは其処でこれからエクソシストとなって、歴史の闇に隠ぺいされるであろう、人と悪魔の大戦を記録する」
───キィン…
まるで頭が覚醒するような、そんな響き。
それを脳裏に感じて目を疑った。
───此処は…何処だ?
───違う
───オレはアレン達とノアの方舟にいて
───夢世界を持つロードに精神だけ連れて来られたと…
「…っ」
───此処は現実世界じゃない…!