第68章 呼ぶ
「体をこき使い過ぎて、アレン達が帰ってきた時に出迎えられなかったら困るだろう?」
「あ、はい…」
「だから程々にな。じゃあ、お疲れ」
「…おつかれさまです」
研究室を後にするハスキンさんを見送る。
その場に残されたのは、私一人だけ。
…もしかして、
「…バレちゃってたかな…」
敢えて残業入れてたこと。
暇な時間を作ると不安が襲う。
色々と考え込んでしまいそうになるから…それなら忙しくしていた方がマシだった。
私はエクソシストじゃないから、ラビ達の隣に立って一緒に戦うことはできない。
こうして、無事でいてと祈り待ち続けるしか。
それは仕方のないこと。
あのノアの一件でも、改めて感じたこと。
仕方ない。
私はただの人間なんだから。
仕方ないんだ。
"知らずに怪我されんのってさ、すげー心が痛い"
デンケ村の任務の帰り道。
列車の中で、私の気持ちが少しだけわかったと言っていたラビの言葉を思い出す。
"手が届かない歯痒さってやつ?…しんどいよな、それ"
…そうだよ。
私の知らない所で、きっと私じゃ想像もつかないような大変な体験をして、怪我を負って帰ってくるラビ達を見ているのは辛かった。
自分じゃどうしもようもできない非力さを思い知らされて。
弱い自分を突き付けられて。
だから、そんな自分を見せちゃ駄目だと思ったんだ。
何より大変な思いをしてるのはラビ達だから。
私が痛い顔をするのは違う。
痛いのはあの子達なんだから。
だからあの子達が帰ってきた時は、いつも笑顔で迎えようって、そう決めていた。
「………」
誰もいない研究室で、書類の上で走らせていたペンを止める。
…大丈夫。
皆が帰ってきたら、ちゃんと笑顔を向けられる。
おかえりなさいって、出迎えられる。
そこに迷いなんて一切ない。
…でも、
「…しんどい、な…」
何もできない非力な自分を感じながら、ただ帰りを待つだけ。
無事でいてと願うことしかできない。
…ラビの言う通りなんだよ。
結構これ…しんどいんだから。