第68章 呼ぶ
待つだけっていうのは、本当にキツいものだと思う。
「じゃあ俺上がるから。南はまだ残業か」
「はい。やくひんのさいしゅうかくにんは、わたししておきますから」
「悪いな、任せた…って、いつまでその姿でいるんだ?」
「あはは…とりあえず、いろいろおちつくまでですかね…」
不思議そうに見てくるハスキンさんに、苦笑混じりに返す。
教団に戻っていつものように仕事仕事の日々に戻った。
だけど私の体は、相変わらず幼いまま。
本当は今すぐにでも体を戻して欲しいんだけど…室長に、今はそんなこと要求できない。
大量の死者の葬儀をやっと終えたかと思えば、次々と舞い込んできた問題。
スーマン・ダークの咎落ち。
大量のAKUMAによるクロス部隊襲撃。
アレンのアジア支部でのAKUMAとの攻防。
そんな中、コムイ室長にとって何より大切なリナリーは日本の江戸に現在は身を置いている。
最後に聞いた情報では、クロス部隊とティエドール部隊が江戸で合流。
その江戸はまるでAKUMAの巣窟のような場所になっていたという。
そんないつ死んでもおかしくない場所にいる妹を案じる室長に、解毒剤を作って下さいなんて言えない。
…まぁ、今もリナリーが江戸に身を置いてるかは、わからないんだけど。
だって、そうやって。
舞い込んでくる数々の情報は、いつも私の耳に届く時には既に"過去"のものとなっていたから。
いつも、聞いてからだと既に物事は終わっている。
アレンのアジア支部でのAKUMAとの激しい戦闘を聞いた時も、もうその戦闘は終わった後だった。
アレンの無事な声を無線機で確認する暇もなく、もう彼はノアの"方舟"という乗り物で、江戸へと向かってしまっていた。
いつもいつも、私には過去のことで。
いつもいつも、置いてけぼり。
「あんまり根詰め過ぎないようにな」
暗くなってしまった思考が、表情にでも出ていたのか。
私の頭を一撫ですると、ハスキンさんが優しい表情で声をかけてくれた。