第11章 ぬくもり
「…放して下さい」
「……どうしたんだ。何があった」
「なんでもないです。放して下さい」
「なんでもなくないだろ」
泥酔していたとは言え、コムイ室長に抱き付かれても平気な顔をしていた南だ。
寧ろリナリーリナリー煩い室長を、うざいと押し返していたくらいだし。
ラビのスキンシップだって普段よくあしらってる。
そんな南が腕を掴まれただけで過剰反応するなんて。
…何よりも、
「俺を見ろ、南」
俯いた顔は俺を見ようとしない。
「南、」
「…っ…」
ぴしゃりと強い口調で名前を呼ぶ。
上司として仕事の支持を出す声で呼べば、恐る恐る南の顔が上がって俺を見上げた。
神田と似た暗い色の瞳。
それは不安げに揺れていて、今にも泣き出しそうにも見えた。
…なんて顔してるんだ。
思わず眉間に皺が寄る。
咄嗟に出かけた言葉を呑み込んで、幾つ分か低い頭にゆっくりと手を伸ばした。
構えるように強張るその体を、安心させるように。
「何があったか知らんが…言いたくなければ、それでいい」
そっと頭を撫でる。
体を強張せる南の存在は、いつもよりも小さく見えた。
掴んだ腕の細さも、撫でる頭の小ささも…今、初めて知った。
こいつはこんなに小さかったんだな…。
「だが俺に強がるな。部下が困った時に甘えられないようじゃ、上司失格だろ」
「…リーバー…班長…」
くしゃりと髪を大きく撫でて笑いかける。
いつもと変わらない態度で、接するように心がけて。
「…ありがとうございます」
すると俺を見上げる顔は、安心したように息をついた。