第11章 ぬくもり
そんなことを考えながら歩いていると、ふと廊下の隅に人影を見つけた。
誰もいない広い廊下だから、それが誰なのかすぐにわかった。
「南っ」
少しくたびれた白衣姿の、科学班連中の中では低い背丈。
それは見送った時と同じ南の姿だった。
ラビの部屋まではまだ距離がある。
映像処理が終わって、戻ってくる途中だったのか。
ほっとしつつ足早に歩み寄る。
「……班長」
薄暗い廊下で表情がはっきり見えた訳じゃない。
でもその違和感は、なんとなく伝わった。
「…どうした?」
俺を確認して足を止めた南は、少し不安げな雰囲気を纏っていたから。
「戻ってくるのが遅いから、迎えに来た。何かあったのか」
「…いえ。何も。大丈夫です」
自分の手首を握って、にこりと笑う。
変わらないいつもの笑顔に見えたけれど、何故か胸の奥がざわついた。
「お手間を取らせて、すみませんでした。仕事に戻ります」
頭を下げて通り過ぎようとする。
「待て、」
咄嗟にその腕を掴む。
ラビの部屋に向かう時も、咄嗟にしてしまった行為。
あの時は南は怪訝な顔をしただけだった。
けれど。
「っ…」
腕を掴んだ途端、ビクリと南の体が反応したのが俺にもわかった。