第66章 アジア支部
「薬を飲んだ時は、どんな具合だったんですか?」
「のんだじかくもないから、あんまりおぼえてないけど…って、ろうふぁさん。かおつつくのやめてください」
「だってふにふにで柔らかくって♪」
科学班らしい質問をしながらも、その手は思いっきり私の頬をつついて遊んでる。
喋り難いから、それ。
「ふにふにってより、ぷにぷにだろ。これ、肌の成分だけ若返らせる効果に変えられたら、女性に馬鹿売れしそうだなー」
「なにその、びようぐすり…って、りけいくん。かおひっぱるのやめてください」
つつくだけならまだしも、むにむに引っ張らないで。
本当に喋り難いから。
「もう、二人共。あんまり南さんで遊ばないようにって───」
「そうだな」
「あっ」
「っ?」
呆れたシィフ君の声に重なるように、その人の声が聞こえたかと思えば、ひょいっと李佳君の腕から、あっという間に私の体は移動させられた。
というか取り上げられた。
「南は玩具じゃないぞ。うちの部下なんでな」
「はんちょう…」
私を取り上げたのは、リーバー班長の大きな手。
李佳君より高い背丈に、一気に目線の高さが上がる。
当たり前に私を抱いているその腕に、やっぱり怖さなんて感じない。
前と同じでいられる自分に、ついほっとする。
…というか。
「同じ本部勤務だからって狡いっすよー、リーバーさん。オレらは薬の効果が知りたいだけですってー」
「俺にはそうは見えないけどな」
「うげ…それ以上はやめとけ李佳。こいつ目が笑ってねぇ」
にこにこと笑ってない目で返す班長に、ジジさんが顔を青くする。
静かに怒る時の班長が、一番怖いことを知ってるからなぁ…。
……私は怖くない。
その怒ってる対象が私じゃないからじゃなくて…多分、
「………」
この腕の中が安心するから。
前はドキドキすることが多かったのに…これは以前とは変わったもの。
きっと班長に、あの夜あんな言葉を貰ってから…感じるようになったもの。
…心地良いっていうのかな。
「やっぱこいつは、南の番犬だな…」
ぼそりと呟いたジジさんの言葉もよく耳に入らないくらい、その安心する腕の持ち主に、私の意識は向いてしまっていた。