第65章 肌に触れる
「だってあのとき、あのばしょにはんちょうがいなかったら…わたし、ロードにつれさられてました」
しっかりと俺の服を握ったまま、その幼い目が見上げてくる。
「ジジさんがわたしをみつけてくれて、かんだがみちをひらいてくれて…リーバーはんちょうが、わたしをたすけてくれたんです」
それは世辞でもなんでもない、確かな事実だった。
「いまのわたしがここにいるのは、みんなのおかげなんです。ひとりでもいなかったら、きっとわたしは…ここにいません」
だから、と付け足して。
真っ直ぐに俺を見上げる目は、迷いなき色をしていた。
幼い瞳でもわかる。
これは南が自分の意思を、しかと露わにした時の目だ。
「みんながわたしをまもってくれたんです。…ほんとうにかんしゃしてます」
深々と下がる頭。
「………」
その小さな口から発せられた思いに、俺は言葉を失った。
南のその真っ直ぐな言葉に、心を打たれたから。
「…そうか、」
…敵わねぇな、本当。
「ありがとう」
「…おれいいうのは、こっちですよ?」
「いや、俺が言いたかったんだ」
南はただ、真っ直ぐな気持ちで礼を言っただけなんだろう。
でもその真っ直ぐな思いが、俺の内にあった劣等感を簡単に拭い去ってくれた。
俺にAKUMAやノアを倒す術はないが、それでも大切だと思う人を守ることはできたんだと。
そう、目の前の南自身が教えてくれたから。