第65章 肌に触れる
カーテンの隙間から、薄らと朝日が差し込む時間帯。
腕の中の小さな存在が動きを見せた。
「…?」
ふる、と小さな瞼が震える。
一呼吸置いて、ゆっくりと開く瞳。
「…ぁふ…」
ボーっとした顔で何度も瞬きながら、眠そうに欠伸を零す。
そしてそのまま、俺の胸に頬を擦り寄せて再び目を瞑───…待て待て待て。
「南」
まだ寝かせてやりたかったが、流石に俺が限界だったから声をかけた。
「……え?」
ぱちりと瞬いた目が、俺を見上げる。
きょとんと見上げてくるその目は、散々泣いた所為か赤く腫れていた。
やっぱり跡になっちまったか。
「おはよう」
いつも通り笑いかければ、南はぽかんと……おい?
「南?」
固まってるぞ、お前。
「───えっ!?はっ!?」
それは一瞬だった。
一気に覚醒したのか、ガバッと体を起こした南が声を上げる。
「は、はんちょう…っ!?な、ん…っわたし…!」
「とりあえず落ち着け。何もしてねぇから」
パニくる南を宥めるように、苦笑混じりに声をかける。
というか、結構頑張ったんだぞ俺。
どんなに体が子供でも、俺にとって南は南。
あんなに愛しいと想う気持ちが溢れたまま、その存在を抱いて眠ることなんてできなかった。
だからといって、平気な顔してその温もりを感じ続けることもできなかった。
耐えた。
必死で。
理性と欲の狭間で。
…今年一番のキツい徹夜だったかもしれない。
「あっ…わたし、あのまま…っ?」
お。
思い出したか。
「ああ、泣き疲れて寝ちまったんだよ。寝不足も祟ったな」
「す…ッすみません…!」
途端にサァッと顔を青くして頭を勢いよく下げる。
そのいつもと変わらない南の姿に、ほっとする。
…後は、
「それはいいとして。南、」
「は、はいっ」
その挙動不審な小さな体は、未だ俺の腕の中。
「…もう、平気か?」
スーツで包んだその体を、布越しに腕で緩く抱きしめる。