第65章 肌に触れる
「…ごめんな…俺が臆病だったから」
涙の跡を、指先でそっと撫でる。
教団で泣き出しそうな顔をしていた時も、本音は見せずに一人で立っていた南。
あの時は踏み込めなかった。
南が一人で抱えようとした問題だから、安易に踏み込んだら駄目だと思ったから。
大切だから、気になるけれど。
大切だから、簡単には踏み込めない。
その思いはきっと今でも簡単には覆せない。
……でも。
「もう一人で、泣かせることはしないから」
本当に南が崩れ落ちそうになる時は、何よりも俺がこの腕で抱き止めていたいから。
その時はもう躊躇なんてしない。
…ジジの言う通りだ。
大事だからこそ、捕まえていないと。
後で後悔なんてしたくないから。
それだけ、俺は南のことが───
「…好きだ」
自然と言葉になって、それは口をついた。
「誰より…お前が好きなんだ。南」
聞こえてないことなんて、重々わかってる。
それでもこの想いは溢れて、腕の中の小さな存在を抱きしめた。
起こさない程度に、優しく。
でも離さない程に、強く。
「…悪い、」
小さな声で謝って、赤い目元にそっと唇を寄せる。
微かに触れるだけの、そんな一瞬の口付け。
溢れた想いは止められなくて、触れずにはいられなかった。
「…多分、カウントには入んねぇだろ」
眠る南の額にキスを落とした時と同じ。
まるで言い訳みたいな自分の言葉に、つい苦笑した。
許せよ、南。
お前相手だと、どうにも俺は"できた大人"じゃいられないらしい。