第65章 肌に触れる
暫くそのまま南を抱いていたが、ずっとこの状態にしておくのもいけない。
折角寝てくれたんだし、ベッドに寝かせることにした。
俺の腕の中より、布団の中の方が体の疲れは取れる。
けれど。
「…あー…うん…」
寝かせようとした体は離れなかった。
その小さな手で、しっかりと俺の服を掴んでいたから。
「……はは、」
思わず笑みが漏れる。
不謹慎かもしれないが、そうやって眠っていても尚、俺に縋ってくれてる南の姿が…嬉しくて。
「…まいったな」
愛おしいと思った。
愛しくて、愛しくて。
どうしようもなく、この体を離したくないと思った。
「───…ふぅ」
仕方ないと、ベッドに座ったまま壁に凭れる。
そうやって俺がどんなに身動ぎしても、南はぐっすりと腕の中で眠り続けていた。
「………」
ふと腕の中の南に視線を落とせば、緩められた襟元から覗くその細い首が見えて目が止まった。
…一瞬だった。
淡い光に照らされて、見えた首元に付けられた赤い跡。
すぐに勘付いた南がその手で隠したから、本当に一瞬だったけど。
それでもそれははっきりと俺の目に止まった。
…悪い、南。
そう心の中で一言告げて、襟に手を伸ばす。
そっと捲れば…ああ、やっぱりな。
幼く細い首や鎖骨に、無情に散らばるその赤い跡が見えた。
「っ…」
予想はしていたが、実際に目に映すと衝撃は大きくて、ぐっと歯を食い縛る。
どうしようもなく感じていた愛しい思いが、どうしようもない怒りに変わる。
何度も大丈夫だと南は言っていたから、きっと本当に未遂なんだろう。
でもだからって、それで良い訳がない。
ここまで涙と嗚咽を漏らす程の恐怖を、南に与えたことは紛れもない事実。
ふつふつと、暗く重い気持ちが沸き上がる。
俺にもしエクソシストとしての力があったら、あのノアを殺してやりたいと思うくらいに。