第64章 心に触れる
他人に厳しいのは、それだけ自分にも厳しいから。
だからこそそんな班長が優しい言葉をくれる時は、偽りのない本当の言葉。
怒る時は怒る班長の厳しい言葉は、私達部下のことをちゃんと思っていてくれるからこそのもの。
憧れた。
そんな班長への尊敬の思いをくれたきっかけは、きっとあれだった。
「お前が…俺の為に笑ってくれてるのは、わかってる」
班長の手がそっと私に伸びる。
思わず、ふるりと肌が震える。
「…俺の為に立っていてくれてるなら…お願いだから、俺にも支えさせてくれ」
その手は私に届く数センチ手前で、止まった。
触れたいのに、触れられない。
そう語るかのように。
「もう黙って見ていたくはないんだ」
どこか切ない声。
優しい、偽りのない班長の声。
あの時と一緒だ。
私の頭に微かに一度だけ触れて、一人で抱え込むな。と哀しい顔で笑っていた。
自分以上に、私達部下のことを思ってくれている。
そんな声。
「お前の上司だからじゃない」
…え?
「俺自身が、南を支えていたいんだ」
紡がれたその言葉に思わず思考が止まる。
「神田みたいに、盾になってお前を守ることはできないかもしれないが…その手を握って、一緒に立っていたい。崩れ落ちそうになるなら、いくらでも俺が受け止めるから」
…あ、駄目。
そんなこと言わないで。
「体の…その跡は時間が経てば消える。でも心はそうじゃないだろ」
情けない自分が出そうになるから。
「見えない傷を、一人で抱えさせていたくない」
班長の伸ばした手が、僅かに下がる。
胸の前に翳される手。
触れてはいないけど、まるで寄り添うようにそっと。