第64章 心に触れる
長く感じる沈黙の中。
「……ごめんな、」
ぽつりと、班長の口から零れたそれは謝罪の言葉だった。
さっきの謝罪とは違う、辿々しい響き。
「話をしたいのに…お前にどんな言葉をかけてやればいいのか…どんなに考えても、わからなくて」
くしゃりと自分の髪を無造作に手で掻いて、顔を歪ませたまま班長の目は床を見つめる。
「弱ってるお前を、助けてやりたいと思うのに…神田のように守れるだけの力が…俺にはないから」
辿々しくも紡がれる言葉。
班長がこんなふうに話す様は見たことがなかったから、純粋に驚いて目が離せなかった。
弱ってるって…やっぱりそう見えるんだ。
…そうだよね。
どんなに笑顔を向けていても、班長も神田もジジさんも、それぞれが皆それぞれに気遣ってくれてたから。
「何かあれば頼れって、何度も言ってたのに…上司失格だな。これじゃ」
深く息をついて、床を見つめる班長の顔は暗い。
「そっ…」
そんなことないです、と言いたかったのに。
俺は頼りないか、と前にエレベーターの中で聞いてきた班長にはそう即答できたのに。
「…っ」
それができない。
だって…頼りたいけれど、今はきっと遠慮なく頼ることができない。
班長のその声や掌から貰っていた安心を、感じることができないから。
「…ごめんなさい…」
「…なんで南が謝るんだ?」
「………」
…だって。
私がこんな態度だから、きっと班長を余計に心配させてる。
私がもっと強い心を持っていれば、こんな気遣いなんてさせなかったのに。