第64章 心に触れる
カチャリ、
私が声を発する前に、ドアの取っ手が回る。
駄目だ。
「っ…!」
咄嗟にゴシゴシと目元を拭う。
涙は出ていないけど、変な顔をしてたらまずい。
「……南?」
ドアの向こうから差し込む廊下の光。
その逆光で、ドアの前に立つ人の顔は見えない。
だけどその声は私には身近な、馴染んだ声だった。
「……リーバーはんちょう…?」
恐る恐るベッドの上から声をかける。
あの背丈もあの声も、間違いなくリーバー班長のもの。
…そういえば、今何時なんだろう。
もしかしてもう朝方?
「え、と……おはよう、ございます…?」
でも、今し方起きた電気のついてないこの部屋はまだ暗い。
首を傾げつつ挨拶をすれば、班長の手が壁の電気スイッチに伸びて。
「………」
「…はんちょう?」
その手が不意に止まると、電気は付けずに暗い部屋のまま中に踏み込んだ。
そのまま班長が向かったのは、ベッドの横に置いてあるミニテーブル。
其処にあった小さな照明を灯す。
暗い部屋にほんのりとだけ、温かい色の淡い光が照らされた。
「起きたばかりじゃ、目が驚くと思ってな」
「…ありがとうございます」
そのままベッドの横で床に膝を付いて顔色を窺ってくる。
ベッドに座り込んでいる私より、少し低い位置にくる班長の顔。
照明の淡い光に照らされたその顔は、いつものように優しい労いの表情をしていた。
「あの…わたし、どれくらいねていたんでしょうか…」
「夜の22時前だ。そう経ってない」
「…そうですか」
思った以上に時間は経っていなかったらしい。
というか…まだそれだけしか経っていないなんて。
「………」
起きてしまったのは、きっと"あの出来事"を夢で見てしまったから。
…こんな状態で、私まともに寝られるのかな…。
「…大丈夫か?顔色、あまりよくないな」
いけない。
洞察力の高い班長だから、下手に落ち込むとバレてしまう。