第63章 葛藤と決断
───
──────
─────────
「………」
足音か、その気配にか。
声をかけられる距離に達する前に、気付いた神田が瞑っていた目を開けて俺を見た。
それは最後に見た時と同じく、ドアの前で六幻を手に立つ姿のまま。
「ほら、お前と南の分の飯だ」
テイクアウトしてきた飯の入った包みを軽く持ち上げて、笑いかける。
渡せばすんなりと神田はそれを受け取った。
「南はどうだ、ちゃんと寝れてるのか?」
「………今は寝てる」
問えばその目はじっと閉まっているドアに向いて、見えてもないのに、そう神田ははっきりと口にした。
列車の中でも、見えてもないのに絶妙なタイミングでジジを俺の上に放り込んできたからな。
…恐らく、その他人の気配を察知する能力はずば抜けているんだろう。
「そうか…」
寝れてるのか。
それを知ると、少しだけほっとした。
「…神田」
「なんだ」
あの後、ジジには一応礼を言ってホテル内のレストランを先に出た。
どんな言葉を南にかけてやればいいのか。
まだ正確なもんは俺の中に浮かんでいないが…それよりも早く、南の下に行きたかったから。
「南が起きたらでいい。…今度こそあいつと二人だけで話をさせてくれないか」
神田が南を守ってくれているのは、あり難かったが…今度はちゃんと二人だけで話がしたい。
誰にも見張られることなく。
「駄目だ」
だがはっきりとした口調で神田が示したのは"拒否"だった。
「話がしたいなら、教団に戻ってからにしろ。この任務中は、あいつは俺の目の届く所に置く」
「…アジア支部なら、フォーの護りがあるからノアの危険もないだろ」
「ノアだけならな」
…やっぱり、そうか。
「俺は南に何もしない」
真っ直ぐに神田の顔を見て告げれば、黒い目は鋭さを増した。
「するしないなんて関係ねぇよ。あいつに触れたら斬るぞ」
殺気さえも伝わりそうな気配に、その脅しは嘘じゃないことがわかる。
神田は一般人でも平気で手を出す時は出すからな…。