第63章 葛藤と決断
「でもだったら尚更だろ」
「は?」
不意に飛んできたジジの言葉に、疑問を抱く。
尚更?
何が。
「言っただろ。ちゃんと捕まえておかねぇと、取り返しつかなくなるって」
「………」
それは南が消えたと神田に聞かされる直前、ジジに言われた言葉だった。
言葉が出ずに黙る俺に、ジジの顔が呆れたものに変わる。
「ったくよ…あいつはお前の部下だろ。そしてお前はあいつの上司」
「え?」
びし、と握っていたフォークで指差される。
「自分でも言ってたじゃねぇか、だから告れねぇって」
…そこまではっきり言ってないけどな。
「今の関係を壊したくないから、告らないつもりだったんだろ?それがなんだよ、そのぎこちなさは。お前が嫌がってたのは、これじゃなかったのかよ」
ジジの言葉にはっとする。
確かに。
俺はこんなふうに南とギクシャクしたくないから、気持ちを伝えるのを渋っていた。
でも今俺とあいつの間にある空気は、それと同じだ。
…そんな空気を、あいつに作らせたくなかったのに。
「南は鈍感な奴じゃねぇから、お前の態度くらい気付いてる。それでも黙ってるのは、なんでだと思う」
「え?…あー…気遣う奴だからか?」
予想しなかった問いかけに、思わず返答が遅れる。
南は他人を気遣う性格だから、俺を気遣って何も言わないとか…?
「バーカ、違ぇよ」
「…んだよ。馬鹿って言うな」
心底呆れた目を向けてくるジジに、つい眉を寄せる。
じゃあなんなんだよ。
「南は言う時は言う奴だぞ。船のプールで水着美女の良さを語ると、冷たい目で俺のこと蔑んできたんだぜ。酷ぇだろ」
それは多分、お前が悪い。
「今のお前との空気が良いもんだなんて、あいつも思ってねぇだろ」
それは…まぁ。
じゃあなんで───
「それでも黙ってるってことは、それだけ弱ってるってことだ。なんで気付かねぇんだよ」
……ジジのその言葉に、何も言えなくなった。