第63章 葛藤と決断
南を守りたいと思う気持ちは誰よりもあるのに、それができない現実。
どんなに抗ったって、所詮俺はただの人間。
教団の中に身を置いていても、俺がノアやAKUMAに勝てる術はない。
そんなこと、もう何年も前から気持ちに整理をつけて教団で働いてきたのに。
今回のことで強く思い知らされた。
「はぁ…」
いい歳して、情けない。
「リーバー…さっきから溜息つき過ぎだぞ」
「ん?…ああ。悪い」
向かいの机で飯を食っていたジジが、訝しげにこっちを見てくる。
「お前…心ここに在らずだな」
「そうか?」
確かに、今食ってる飯の味もあまり伝わってこない。
こうしてる間にも気になるのは南のこと。
あいつの顔が頭の隅にずっと引っ掛かって、離れない。
…今度はちゃんと寝れているんだろうか。
「はぁあ~…ったくよ。仕事じゃ鉄仮面並みに表情変えねぇのに、恋愛となると駄目だな」
「っごほッ」
盛大な溜息と共に漏れたジジの言葉に、思わず飲んでいた水で咽た。
急に何言い出すんだよ。
「どうせ南のことだろ。お前昨日から、南に対する態度が可笑しいんだよ。色々」
「…仕方ねぇだろ」
お前は知らないから、そういうこと言えるんだよ。
"南、怪我はないかっ?"
"───っ"
ノアが消え去った船の中で手を伸ばして触れようとした瞬間、後退った南の顔は今まで俺に向けたことのない表情をしていた。
…いや、あれに似た表情なら一度だけ見たことがある。
夜中の教団の廊下でラビの部屋から戻ってくる南を見つけた時、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
あの時の南と、あの顔は似ていた。
どこか恐怖に怯えた、そんな顔。