第63章 葛藤と決断
脱衣所に代えの服を持っていった際に、南と何か話でもしたのか。
それはわからないが…恐らく感じたのは確かなんだろう。
南の身に何かあったってことを。
じゃなきゃ他人に無関心な神田が、あそこまで固執したりしないはずだ。
…多分。
「とにかくまだ情報が整理できてないんだ。無闇に南に突っ込んだりするなよ」
「へいへい。お前も神田もなーんも喋んねぇから、俺にはさっぱりだよ」
「…悪いな」
「謝るなら、ちゃんと後で教えろよ」
「ああ」
全部は伝えられないが、ノアのことはジジにもコムイ室長にも伝えておかないと。
「んじゃ、飯食いに南達呼びに行こうぜ」
明るく呼びかけるジジに続いて、部屋を出る。
ジジのこういう性格は、時々助けになる。
感謝しないとな。
「───お?どうした神田、そんな所で」
部屋を出ると、すぐ隣のドアには神田が背を付けて立っていた。
ジジの呼びかけに、視線だけ向けてくる。
「あいつは寝てる。飯はいい」
簡潔にそれだけ告げると、その視線はすぐに外された。
…やっぱりな。
予想はしていた。
今朝見た南の目元には隈があったし、いつもの笑顔もどことなく疲れていたから。
…恐らくほとんど眠れなかったんだろう。
「そーか?じゃあ神田だけ───」
「俺はいい。二人で行ってこい」
「いいって…飯要らねぇのかよ」
「いい」
簡潔に、必要なことだけ口にする。
そんな神田はいつもと変わらないが、やはり南に対する姿勢は明らかに変わっていた。
昨夜もそうだった。
ベッドに入った南を確認した後、その傍に腰を落ち着かせた神田はそこから動こうとしなかった。
六幻を手にベッドの傍に座る様は、昼間ジジが言ったような、南を守る"護衛"のようだった。