第62章 名前
「はぁ…」
宛がわれた部屋のベッドに座ると、どっと疲れが襲った。
「つかれた…」
「寝てないからだろ。列車ん中でも、時々頭揺れてたぞ。お前」
「えっ」
そうなの。
思わず神田を見れば、荷物を机に置きながら視線を向けずに話しかけてくる。
「飯食うのか」
「…ぶっちゃけ、それよりねたいです…」
「だろうと思った」
六幻が入った布袋だけを手にして、スタスタと神田が向かったのは部屋の外に続くドア。
「リーバー達には俺から伝えておく。お前は寝ろ」
「え?」
「起きたら呼べ。部屋の前にいる」
「ち、ちょっとまって、かんだっ」
当たり前のように言って部屋を出ようとする神田を、慌てて止める。
起きたらって…それまでまさか待機するってこと?
「まさか、わたしがねてるあいだそとにいるきじゃ…」
「それがなんだ」
やっぱり…!
「だ、だめだよ。かんだもちゃんとねないと。わたしみたいにねぶそくになるよ…ッ」
「お前とは体の造りが違う。二日三日、寝なくても平気だ」
確かに体の造りは違うだろうけど!
でもだからって、そんなこと見逃せない。
てっきり班長やジジさんから離す為に、別部屋を提案したんだと思ってたけど…違う。
神田は元から私だけに、この部屋を使わせる気だったんだ。
「わたしならだいじょうぶだから…ひとがいてもちゃんとねれるよ」
「寝れるんなら、列車ん中で頭揺らしてまで眠気と格闘するかよ」
「それは…」
「俺には強がるなって言っただろうが」
そう強く言われ、言葉が出てこなくなる。
「今朝約束したのに、もう忘れたのかよ。それでも頭使う科学班の一員か」
「そ…っ…わすれてないよ…」
そ、そこまで言わなくてもいいんじゃないかな。
「アジア支部に着くまでだけだ。またいつあのノア野郎が現れるか、わかんねぇだろ」
その可能性は、ないとは言い切れない。
だからそれを否定できる言葉は見つからなかった。