第62章 名前
正直もう二度とあのノアには会いたくないけど…教団で働いている以上、その可能性はゼロじゃない。
「………」
思わず黙り込む私に、神田が小さく息をついた。
「…言っただろ。誰もお前に触れさせない。寝てる間は誰も近付けさせねぇから、余計なこと考えずにお前は寝ろ」
粗雑な言い方だったけど、その口調に棘はない。
それは確かに神田なりの気遣いだった。
「寝不足でふらふらなまま動かれる方が、こっちは迷惑なんだよ」
迷惑だと感じるものに、変な情は持たないだろうから。
きっとそれは神田なりの優しさだ。
「…ごめん」
昨日あんなことがあったばかりだからか。
ノアに対する不安は拭えない。
だからはっきりと、大丈夫だと言うことはできなかった。
「謝るなら、その酷ぇ面少しはマシにしておけよ」
小さな声で謝れば、静かに私を見てそれだけ言葉を残すと、神田は部屋を出ていった。
「………」
その場に取り残される。
誰もいない空間。
"一人になりたい"
それは昨夜確かに私がそう望んだ空間。
「…ありがと…」
昨日まともに寝付けなかった私の為に、神田がくれた空間だった。