第62章 名前
「あー、いてて…長時間座ってるってのも、中々キツいよな…腰がバキバキだ」
「ジジ、お前本当に親父臭いぞ」
「うるせ」
やっと長時間の列車移動が終わって、目的の町に辿り着いた。
そんな腰を抑えて呻くジジさんの隣で、私は目頭を抑えて内心自分を褒め称えていた。
よく頑張った、私。
よく寝落ちなかった。
元々教団で徹夜も割と当たり前だったから、睡魔と戦うのは慣れてたけど。
でもそれは仕事をしてるからであって。
列車に揺られながら睡魔と戦うなんて、本当に大変だった。
よく頑張った、私。
もう早く寝たい。
「もう陽も暮れてるし、夕飯は此処でいいだろ?」
見つけたホテルの受付に立ちながら、リーバー班長が皆に提案する。
窓の外の空はもう暗い。
というか…私は正直、食事より睡眠がいいです…眠いんです…。
「そうだなー」
「何処でもいい」
一つ返事で頷くジジさんと神田に、私も習って頷く。
「じゃあ四人部屋を───」
「待て」
受付でチェックインしようとした班長を止めたのは、神田だった。
「部屋は二つにしろ」
二つ?
「俺とこいつで別だ」
こいつ、と言って神田が指差したのは…私?
「別って…なんでだよ」
「ジジの鼾が喧しくて寝れねぇんだよ」
「お前…今日なんか悉く俺に冷たくねぇか?」
「本当のこと言ってるだけだ」
しれっとした顔で言う神田に、ジジさんがどこか呆れの表情を見せる。
その隣に立つリーバー班長は───
「駄目だ」
厳しい顔をしていた。
「昨日の今日だ、皆固まっていた方がいい。また何があるかわからねぇだろ」
「隣部屋なら問題ないだろ」
「だからって…」
「いいから別にしろ。顔面サンドバッグにすんぞコラ」
「おま…ッすぐそうやって暴力に訴えんのやめろ!」
ボキボキと拳の骨を鳴らしながら、威圧する神田の目は殺気立っていて怖い。
ジジさんが班長の背中に隠れながら叫ぶくらいだし。
あの班長も、冷や汗掻いてるし。
科学班の皆と雑魚寝してたから、別に異性と二人で相部屋になったって気にしないけど。
気にしない性格だけど。
でもこんな怖い人と二人きりなんて、流石に恐ろしいんですけど私…!