第62章 名前
ガタン
ゴトン
列車が揺れる。
車輪の音を響かせて。
ガタン
ゴトン
そんな中、私は一人。
「…ねむ」
睡魔と戦っていた。
ガタン
ゴトン
列車一本で目的地まで着くから、この乗り物での移動時間は長い。
ジジさんが買ってきてくれたお弁当でお腹を満たして、一定の揺れる空間に身を預けていると。
寝不足なこともあって睡魔が襲ってきた。
「………」
でも寝れない。
此処にはリーバー班長も神田もジジさんもいる。
皆のいる前で眠ることなんてできない。
任務中だってこともあるけど…それ以上に、無防備な姿なんて曝け出せないから。
前は研究室の仮眠室で、ジョニーやタップと平気で雑魚寝してたのに…。
今思えば、あれはお互いに男女の意識が全くなかったからできたんだろうな。
意識の仕方一つで、ここまで変わるなんて。
…教団に戻ったら、私は変わらず皆と雑魚寝できる仲でいられるのかな…。
ふいにそんな考えが浮かぶと、気持ちが沈んだ。
ラビやアレンは、女性扱いしない科学班の皆のことを気にしてたけど。
時には乱雑に扱ってくる、科学班の皆だけど。
悪い意味で言えば適当なのかもしれないけど、良い意味で言えば平等に扱ってくれた。
私はそんなあの空間が好きだったから。
もし以前みたいに、皆と関われなくなるなんてなったら──
「…いやだな」
そんなの。
「嫌?」
不意に上から降ってきた声に、はっとする。
視線を上げれば、訝しげに見てくる神田の顔。
「ううん、なんでもない」
まずい、声に出してしまってた。
軽く笑って返せば、その目はじっと見返したかと思えば逸らされる。
追及してこないのは、やっぱり神田が作るその距離感があるからだと思う。
内心ほっとして、同時に気付く。
神田のその存在に、割と助かっている自分がいることに。