第62章 名前
「お前もボサッとしてないで歩け。列車に乗り遅れるだろ」
「あ、うん」
ちらりと不意に神田の黒い目が向く。
言いながら急かすように歩くけど、その歩調は私が追いつけるくらいの速さ。
促されるままに再び足を動かしながら、とりあえずジジさんには頭を下げておくことにした。
「いつの間に仲良くなってんだか…若者同士の交流の速さには、目を見張るもんがあるよな。リーバー」
「ジジ…お前凄く親父臭いぞ、その台詞」
神田を追っていると、後ろからそんな二人の会話が聞こえた。
その会話を聞く限りは…多分、朝方の神田との約束は二人には聞こえてなかったらしい。
よかった、下手に起こしてなかったみたいで。
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「お、個人車両か!こりゃあゆっくり寛げそうだな♪」
昼前に駅に着いて目的の列車に乗ると、次の宿を取る町まで一本だからか。
個人車両で四人、過ごすことになった。
後は町で一晩寝泊りして、次の日にはアジア支部到着か…。
…うん、なんか長かった。
「ジジ、弁当買ってきてくれるか。中国のもんは俺にはよくわからないし」
「ん?ああ、そうだな。他に必要なもんあるか?」
「後は飲み物とこっちの詳細な地図と───」
列車が出発するなり、リーバー班長がてきぱきとジジさんに買い物を頼む。
「うし。じゃあ神田も行」
「一人でそれくらい買って来い」
「…情けってもんを何処に置いてきたんだよ、お前は…」
ジジさんの誘いをすっぱりと断ち切った神田は、私の隣にドサリと腰を下ろす。
隣だけど、一人分だけ距離を開けて。
…やっぱりその神田がいつも作る微妙な距離間は、今の私には丁度良かった。
「はー、わかったよ。じゃあ行ってくる」
「ああ、悪いな」
「すみません、ジジさん」
「おう。待ってろよ、南。美味い飯買ってきてやるから」
にかっと朗らかに笑って車両を出ていくジジさん。
あのどこまでも明るい性格は、見習わなきゃなぁと偶に思う。