第61章 弱い心と強い心
「お前はどうなんだよ」
思わずほっと息をついていると、ぼそりと急に問われた。
私?
「大丈夫だなんだ、昨日何度も吐いてたろ」
思わず顔を上げれば、真っ直ぐにこっちを見てくるその鋭い目と合う。
「本当に大丈夫なのかよ」
迷いなき問いに、一瞬言葉が詰まる。
やっぱり、あのシャワー室での泣き声は聞こえてしまったのかな。
「…だいじょうぶだよ」
大丈夫。
笑顔は浮かべられる。
笑って応えれば、神田は変わらず鋭い視線を向けたまま。
「───…!?」
瞬間、強い力で腕を掴まれた。
「な…ッ」
思わず目を見開く。
反射的に飛び退こうとしたけど、掴んでくる手の力は強くてビクともしなかった。
───嫌
「チッ」
それは一瞬だけだった。
舌打ちと共に、一瞬ですぐに放される腕。
「どこが大丈夫なんだよ」
あっさりと手を離した神田が睨むように私を見てくる。
掴まれた腕を押さえて、その時初めて私は息が僅かに上がってることに気付いた。
「ッは…っ」
一瞬だったのに、その一瞬に恐怖してしまったから。
心拍数が上がって心臓が煩く鳴る。
「こ…こんなことされれば、ふつうおどろくから…」
「驚くって反応じゃねぇだろ」
言い訳はすっぱりと断ち切られた。
「下手に強がんじゃねぇよ、面倒臭ぇ」
容赦なくきっぱりと言われて、言葉を失ってつい俯く。
…わかってるよ。
下手な強がりだなんてわかってる。
私がリーバー班長の立場なら、頼って欲しいって思う。
弱音を吐き出して欲しいって、そう思うよ。
───でも。
「…こわがるすがたなんてみせたら、はんちょうがきずつくでしょ」
班長にちゃんと触れられもしないのに。
そんな態度で、偉そうに弱音なんて吐けない。
「あのひとをきずつけるくらいなら、つよがりくらいするよ」
情けなく怯えて班長を傷付けてしまうくらいなら、下手な強がりの方がまだマシだ。
「テメェな…」
「かんだは、きずつけたくないっておもうひといないの?」
ぐっと拳を握って顔を上げる。
真っ直ぐに見て視線がぶつかると、その顔は呆れた表情を止めた。