第61章 弱い心と強い心
歯を食い縛る。
それでもぐすぐすと、漏れる涙は止まらない。
抱きしめた体は小刻みに震えたまま、そんな情けない自分にまた涙が溢れた。
あんなノアに好きにされて、こんな簡単に怯えるなんて。
「つ、ぅ…ッ」
なんて私は弱いんだろう。
───カタン、
「ッ!?」
突然予想もしなかった音が背後から聞こえて、心臓が跳ねた。
驚いて振り返れば、曇りガラスのドアの向こう。
いつの間に脱衣所にいたのか、ぼんやりと輪郭を作っている人影。
え…誰?
「だ…だれ…?」
思わず恐怖が湧く。
恐る恐るドア越しに問えば、
『……俺だ』
聞こえてきた低い声は……神田?
『代えの服を置いておく』
「っ…ぅ、うん…」
なんとか震える声を抑えて言葉を返す。
泣き声…もしかして、聞こえた…?
そんな不安が過ぎったけど、それ以上神田は何も言わなかった。
やがてパタンと、脱衣所のドアが呆気無く閉められる。
「………」
聞こえてなかったのかな…だといいけど。
「…ぐす…」
驚いた際に涙は止まったらしく、僅かに鼻を啜る。
頬を濡らしているその滴を拭って、シャワーの水栓に手を伸ばした。
ずっと此処にいても班長達に心配をかけてしまう。
…早く綺麗にしよう。