第61章 弱い心と強い心
「南…」
どこか煮え切らない表情で、リーバー班長が私の名前を口にする。
…なんとなくその表情の意味はわかった。
今、私達の間にある空気はどこかぎこちないから。
そうさせてしまったのは私なんだろう。
…でもだからって、平気なフリして班長に触れられない。
触れたら多分…怖くなる。
それこそそんな態度を示したら、きっと班長を傷付ける。
それは嫌だ。
「チッ」
不意にその場に響いたのは、荒々しい舌打ちだった。
「面倒臭ぇな」
「ぉ…おい、神田?」
ズカズカと早足で歩いたかと思えば、あっという間に班長を通り過ぎて目の前に神田の体が立ち塞がる。
首を大きく曲げないと神田の顔は見えないくらい、高い身長。
こ、怖いんですけど…。
「大人しくしてろよ」
「え?…っ!?」
それだけ吐いたかと思えば、徐に私に伸びる手。
思わず反射的に後退ろうとしたけど、それより早く神田の手は羽織っていたコートを掴んだ。
「おい神田!何して…!」
「変なことはしねぇよ」
「わわ…っ!?」
有無言わさない力で、早々と神田の手がコートの袖をぎゅっと結んで私の体を固定する。
そのままひょいと、まるで荷物を持つかのように、片手で結び目を掴むと背中から軽々と持ち上げられた。
変なことって…充分変なことしてますけど…!
何この扱い!
科学班の研究室に連れていってもらった時以上に、荷物的扱いなんですけど…!?
「こいつに合わせて歩いてたら、時間掛かるだろうが。さっさと戻るぞ」
「だからって…!」
「それよりリーバー、ジジに連絡入れろ。あいつの安否確認が先だ」
「あ、ああ。わかった…って待て待て、神田!」
スタスタと片手で私を掴んだまま、瓦礫の向こうに出ていく神田の足は速い。
慌てて後を追いながら通信ゴーレムに連絡を入れる班長が、視界の隅に映った。