第60章 隠れんぼ
大きな衝撃は、この部屋の空気を振動させて揺らす程。
ぐにゃりと、それはまるで空間が歪むように…あ。
「見えたぜ」
ぐにゃりと歪んだ空中に、確かにできたそれは僅かな隙間。
その隙間を通って、確かに神田の鋭い目は"こちら"を見た。
「おいおい、ロードの空間を裂くなんて…南ちゃん、あれのどこが使えない武器なんだよ」
驚いた顔で呟くノアに、私も同じく驚きで返事もできない。
いえ、本来は使っちゃ駄目なんですあの武器。
「出てこいよ。隠れんぼはおしまいだ」
歪んだ隙間に向かって六幻を突き付ける、そんな神田の言葉にはっとする。
そういえば、ロードはまだ隠れてるつもりなのかな。
「じゃねぇと、この中にまた一撃ぶち込むぞ」
「…やれやれ。南ちゃんのことも考えてやれよ。間違えて当たったらどうすんの」
ビシビシと私も感じられる神田の殺気に、顔色一つ変えることなくノアの手が歪んだ隙間にかかる。
ぐにゃりと更に大きくなる隙間。
「まぁ俺も、そんな技を何度も打たれるのは遠慮したいし」
その隙間から一歩、跨ぐようにノアが通過する。
すると。
「南…?」
見開くリーバー班長の薄いグレーの目。
それは確かに、私を映し出した。
「リーバーはんちょう…っ」
見えてるんだ、私のこと。
気付いてくれた。
思わず口元に笑みが浮かぶ。
「南…お前…っ」
だけどそんな私とは対照的に、班長の顔は驚きの色を浮かべたまま大きく歪んだ。
なんで───……あ。
色々あって一瞬忘れてたけど、今の私の恰好は見れたものじゃない。
ノアの手で裂かれた服は、辛うじて体に引っ掛かっているようなもの。
…きっと酷い形してる。
「っ」
破けた服を掴んで、胸元を託し合わせる。
こんな姿、見られたくない。
班長の目から逃げるように、咄嗟に視線を逸らした。