第60章 隠れんぼ
「まぁ知ったところで、何も状況は変わらないけど」
肩を竦めて笑うノアに、私は驚きを隠せなかった。
ロードがAKUMAだと思い込んだ時よりも、それは衝撃だったから。
あんな小さな普通の女の子が、ノアの一族だったなんて。
「それより俺らは今、此処じゃ透明人間になってるから。派手な行動は慎んで欲しいな」
「ス、スミマセン」
覆い被さっていたノアの体が離れる。
だけどその手は逃がさないように、私の手首をしっかりと握っていた。
金色の目を細めて言うノアに、AKUMAが怯えるように頭を下げる。
そうだ。
このAKUMAも私達と同じ夢の空間にいるなら、リーバー班長達には見えていないはず。
…あれ、でも。
今、神田はAKUMAの攻撃を六幻で防いだよね?
「…成程な」
ぼそりと低い声がその場に響く。
それは六幻を手に、AKUMAを睨み付けている神田からだった。
…え?
見えていないはずなのに、その鋭い目は真っ直ぐAKUMAへと向けられている。
「成程?」
「どうしたんだ、一体。いきなり刀振るったりして…」
不思議そうに問いかける班長とジジさんに、神田はスラリと六幻の刃を構えるように持ち上げた。
「そのゴーレムが此処に来た理由がわかった」
「え?」
ズズ、と刃に青白い気配が浮かび上がる。
「姿は見えなくても、殺気は漏れてるぜ」
大きく振るわれる六幻。
ズァッ!と刃を纏っていた青白い気配が、幾つも分かれてAKUMAに襲い掛かる。
その姿は奇妙な形をした蟲。
六幻の技の一つ、"界蟲一幻"。
「ギャ…ッ!」
不意を突かれたからか。
避けきれなかったAKUMAの体に、界蟲達が持つ鋭い刃先が突き刺さった。
すると。
「な…なんだ、ありゃあ…っ!?」
「AKUMAか…!?」
ジジさんと班長の目が、驚愕で見開いた。
二人のその目は真っ直ぐに、神田の攻撃で体制を崩しているAKUMAに向けられている。
…もしかして…二人共、AKUMAの姿が見えてる…?