第60章 隠れんぼ
「此処に南はいないのか?」
「…みたいだな」
「じゃあ手当たり次第に、他を当たってみるしかないか…」
「散々手当たり次第に捜した結果、此処に来たんだよ」
ジジさんの言葉に、ゴーレムを手にした班長が溜息混じりに腰を上げる。
離れていく体に、掴んでいたコートもするりと手から抜けていく。
…駄目、行かないで。
「やっぱりただの偶然、か」
そう、ぽつりと呟かれたノアの言葉が胸に突き刺さる。
やっぱりあれは…偶然だったのかな。
「───!」
「ん?」
「どうした、神田」
落ちる思考を止めたのは、鋭い視線を上げた神田の姿だった。
ジジさんと班長に問われ、その目はじっと壊したドアの向こうを見る。
「…何か来る」
そう神田の口が告げた時。
ガガガッ!
壊れた瓦礫の向こう側から、鋭い何かが飛んできた。
「っ!新手か…!」
ギィンッ!と六幻の刃で弾いたそれが、床を滑って近くに落ちる。
見えたのは、見覚えのある形の刃物。
これ…あの蜘蛛みたいなAKUMAが、口から放ってた物だ…っ
「見ツケタワ、子羊チャン」
瓦礫の向こうから、蜘蛛のような赤黒い足が伸びる。
大きな体を捻じ込ませるように中に顔を突っ込んできたのは、やっぱり。
あのマリアさんの皮を被っていたAKUMAだった。
「コンナ所ニ隠レテ───……アラ?」
顔に張り付いた無数の目がギョロギョロと回って、その目にノアを映した途端、止まった。
「……ノア、様?」
驚いたように呼びかけるAKUMAに、
「あーあ。面倒なのに見つかっちまった」
溜息をついたのは、この泣き黒子を持つノア。
「何故…ロード様以外ニモ、ノア様ガ?」
ロード以外にもって…え?
それって。
「…ロードって、ノア…なの?」
信じられないその問いを、思わず目の前のノアに投げかける。
AKUMAから私に向いた顔は、きょとんと軽い調子で首を傾げた。
「あれ、言ってなかったっけ」
嘘。