第60章 隠れんぼ
「見えてないんじゃ、いてもいなくても同じだろ。ま、俺としては面白いけど」
「どんだけへんたいなの…っ!」
「あれ知らなかった?男は皆、変態なの」
貴方は特別変態です。
まさかとは思ったけど、本当にそのまさか。
すぐ傍にリーバー班長も神田もいるのに、構わず肌に手を這わせてくるノアに思わず焦る。
嫌だ、こんなの。
すぐ目の前に班長がいるのに。
『ピーピー!!!』
「どうした。此処に何か手掛かりでもあるのか?」
そんな私に反応するかのように、けたたましくゴーレムの鳴き声が大きくなる。
それに声をかける班長は、異変に気付いているだろうけど私には気付いてはいない。
「いや…ッ」
涙が出そうになる。
こんなに近くにいるのに、声も何も届かない。
班長。
リーバー班長。
お願い、気付いて。
私は此処にいますから。
「っ…!」
必死に暴れて伸ばした手で、班長のコートの端を掴む。
ノアの言った通り。
コートを引っ張っても、班長は気付く素振りを見せない。
触れられるのに気付かないなんて、一体ロードの能力はどんなものなのか。
見えない力の大きさに恐怖は募る。
「リーバーはんちょう…ッ!」
ぎゅっとコートを強く握る。
「──…」
声は届かない。
感触も伝わらない。
───はずだけど。
「──…?」
班長の顔が不思議そうに、こっちを向く。
その目は私を映していないのに、
「…………南…?」
その口は確かに、私の名前を紡いだ。
「……え」
「…まじで」
思わず班長の顔を凝視する。
同じように、被さっていたノアの動きも止まった。
…今、私を呼んだ?
「どうした?」
「いや…今、なんか…南の声が聞こえたような、気がして…」
「声?何処だ?」
「…それが…」
不思議そうに辺りに目を向ける神田に、班長自身も考え込むように声を漏らす。
その目は、さ迷うように辺りを伺う。
「上手く言えないが…近くにいる気がする。なんとなく、だけど」
どことなくはっきりとは言い切れない、班長の言葉。
それでも私の存在を感じてくれたのは、確かだった。