第60章 隠れんぼ
「はんちょう!かんだ!わたし、ここにいますっ!!」
「だから無駄だって。声も姿もあの二人には届いてねぇよ。この蝙蝠が反応してんのは、謎だけど」
ピィピィと鳴き続けるゴーレムを、胡散臭そうに見ながら摘まんだままノアが口を挟んでくる。
そうだ、このゴーレムは私に気付いた。
見えてなくても体に触れることはできるらしく、それでも感触は伝わらないのか。
触れた船の人々は、私に気付かなかった。
でもこのゴーレムは、確かに私を察知して突進してきた。
「ゴーレムは反応してる。絶対此処にいたんだ、南は」
顔を歪ませて、苦々しく言葉を吐き捨てるリーバー班長。
「くそ…ッ」
悪態をつくその声は、荒々しくも切なるもの。
そんな班長の姿を見たのは、初めてだった。
「でももう、此処にはいねぇんだろ。おい、あいつの匂いは何処に続いてる」
こっちを見て、そう神田が指示を出してくる。
でもその目は私もノアも見ていない。
見ている先は、ピィピィと鳴いている小さなゴーレムだった。
…匂い?
「…成程ね。この蝙蝠は南ちゃんの匂いに反応してたって訳か」
納得したように呟いたノアが、ゴーレムから手を離す。
するとまた、そのゴーレムは私の顔にぐりぐりと球体を押し付けてきた。
匂いを辿るゴーレムなんて…そんなゴーレム、作った覚えはないけど。
「聞こえてねぇのかよ。此処にはもう───」
「待て、神田」
訝しげな顔をする神田を止めて、じっと班長の目がゴーレムを見る。
「ジジの腕は確かだ、ゴーレムが誤作動するはずはない。…此処に何かあるのか?」
ゴーレムに近付いた班長が、その場に腰を落とす。
それは私の隣。
「はんちょう…っ」
呼んでも、その目は私を見ない。
でも其処にいるのに。
手を伸ばしたら、触れられるくらいの距離に。
「だーめ」
伸ばした手は、ノアによって遮られた。
手首を掴まれて、床に押し付けられる。
「触っても気付かないとは思うけど。今は俺とお楽しみ中だからね?」
にっこり笑うノアに、嫌な予感が頭を過ぎる。
…まさか。