第59章 大人の遊び

咄嗟に噛み付こうとすれば、がちりと私の歯は何も噛まずに噛み合わさった。
口の中にノアの指先は入り込んでいるのに、確かに私の舌をなぞっているのに。
それ以外はまるで実態がないかのようにすり抜ける。



「そうそう。そうやって必死に抗う人の思いをさ、」



驚き見上げる私を見るその金色の目を細めて、口角をつり上げて笑う顔は狂気そのもの。



「ぽっきり折っちゃうのって、すげぇ快感なんだよね」



ぞわり



感じたのは、異様な悪寒。
このノア…考え方が歪んでる。



「さて、と」



愕然とする私を前に、気にした様子もなくするりと咥内の指を引き抜く。
私の唾液で濡れたその指を舐めながら、サラリとノアは言った。



「じゃあ次はこっち」



え？



「ッ！な…！」



短パンを掴むその手に、我に返って声を上げる。
そんなところ本当に洒落にならない。



「さ、さいごまでしないっていった…！」

「しないよ、味見だけだって。大丈夫、優しくするから」



藻掻いてもあっさりと押さえ付けられて、両足の間を浅黒い腕が割って入る。
優しくも何も、そんなもの求めてない！



「しんぞうにぎっておいて、なにがやさしくなの…っ！」

「それは南ちゃんが悪いかな。あんまりイイ顔してくれるから」



ふぅ、と内太腿に近付いた顔が吐息を吹きかけてきて、ぞわりと鳥肌が立った。



「人の絶望する顔、俺好きだからさ。基本虐めたくなるんだけど……でも、まぁ」



するりと、私の心臓を握っていた手が離れる。
その手が太腿を撫で上げる様は酷く厭らしくて、ぞわぞわと嫌な悪寒が走った。



「俺、南ちゃん気に入ったから」



ちらりと、金色の目が私の顔に向く。



「イイ反応してくれるなら、快楽漬けにしてあげる」



にっこりと笑う。
そこに悪意らしいものは見当たらなくて、だからこそ息を呑んだ。

その口調も表情も爽やかにさえ見えるのに、言うことは思いっきり歪んでる。
可笑しい、この人。
こんなノア、言葉で説き伏せることなんて到底できない。