第8章 真夜中の訪問
「…でもさ、」
「うん」
「男と夜中に二人っきりで仕事なんて、意識したりしねぇの?」
「…はい?」
天井を仰いだまま、ぽつりと呟かれた言葉。
思考の斜め上をいくラビの言葉に、思わず間抜けな声が漏れる。
急に何言ってんの、相手は仕事の上司なのに。
「そんなこといちいち意識してたら、仕事できないから」
科学班は圧倒的に男性の比率が多い。
そんな中で仕事をするのに、いちいち女性だなんて意識出してられない。
「それに班長と私は、上司と…」
「部下、だろ?」
天井を仰いでいた顔が私へと向く。
私の言葉に重ねて、ラビが答えを吐き出す。
わかってるなら、なんでそんなこと───
「じゃあオレは?」
「……ラビ?」
「オレと南は、上司でも部下でもねぇさ」
「どうしたの、急に」
ゴーレムに繋げた機器を弄っていた手は、いつの間にか止まってしまった。
変なことを言うラビをまじまじと見る。
そんなこと今まで一度も言ってきたことなかったのに。
「こんな夜更けに簡単に男の部屋に上がるなんてさ。…南、無防備過ぎ」
ガシガシと乱暴に頭を掻いて、そう口を尖らせてくる。
「そんなこと言われても…仕事だし…それに…」
「それに?」
「そ、それに…ラビは…違うというか…」
ラビにそんな危機感なんて持ってなかった。
それは言わなかったけど、多分ニュアンスで伝わったのかもしれない。
もごもごと口籠る私にラビは肩を下げて、はぁあ~っと盛大に溜息をついた。
「オレ、男として見られてなかったんか…」
「ご、ごめん」
「謝んなさ…余計落ち込む」
「ごめ…っえっと、ラビは格好良いよ!背だって高いし頭も良いし、エクソシストとして充分活躍してるしっ」
「…フォローが逆に悲しい」
項垂れ落ち込むラビの頭を慌てて撫でる。
そんなに落ち込まないでよ、私が苛めてるみたいだからっ