第58章 ゲームルール
そもそも、こんな年頃の子供は乗客にいなかったと船員から聞いた。
…目の前にいるこの少女は、一体何者なのか。
「君は一体…?」
その不可思議な問いは、気付けば口をついて出ていた。
眉を潜めて問いかけても、少女はにこりと笑うだけ。
言葉の解答はないのに、胸騒ぎがする。
「ボクのこと知りたい?キミもボクと遊んでくれるなら、教えてあげてもいいよ」
すとんっと軽い身のこなしで柵から飛び下りた少女が誘ってくる。
改めて見るとその体は小さく、見た目は普通の13歳程度の女の子。
そこに違和感なんて何もないのに。
「何して遊ぶ~?」
そう誘いながら手を伸ばしてくる姿は、一瞬胸をざわつかせた。
ドッ…!
そのざわめきを止めたのは、激しい衝撃音だった。
「なっ…神田!?」
一体いつやって来たのか。
突如俺の視界に現れたのは、身構えるように立つ神田。
その手には鞘から抜いた六幻。
振り下ろすように握られたその刃の先は───
「お前何やって…!」
俺に手を伸ばしていた少女へと、迷いなく振り下ろされていた。
何やってんだ!?
相手はAKUMAじゃないのに───…!
「こいつは人じゃない」
まるで俺のその思考が聞こえたかのように、冷たい言葉で神田が応える。
その目は真っ直ぐに斬り付けた少女へと向けられていた。
「餓鬼がこんな殺気放つかよ」
殺気?
「もぉ…お話の邪魔しないでよぉ」
「「!」」
聞こえた声は、高い子供特有の声。
俺のものでも、神田のものでもない。
「せっかちなんだから~」
それは斬り付けられたはずの、目の前の少女からだった。
「そういうコ、きら~い」
むぅっと、子供のような動作で頬を膨らませて少女が神田を睨む。
それだけ見れば普通の子供の反応だが、俺と神田は驚きを隠せなかった。
なんせその体は神田の六幻の刃を受けて、肩から胸までざっくりと大きく斬り込まれていたからだ。
「やっぱりAKUMAか」
「ぶー。違うよぉ、ボクは人間」
胸に食い込んだままの六幻に小さな手を添えて、少女は顔色一つ変えず笑う。
「キミ達と同じ人間だよ~」