第58章 ゲームルール
「じゃあ遊びが終わったら、俺達の所に戻ってくるよう伝えておいてくれるかな」
安心はしたが、黙って遊びに没頭していたことは後で忠告しておかないとな。
通信ゴーレムでも持たせてやればよかったか。
「あのコが勝ったらね」
勝ったら?
どこか引っ掛かる言葉に、思わずその子を見返す。
目での問いに気付いたのか、愛嬌ある顔でにこりと笑うと。
「負けたら、ゲームオーバーだから」
そう、楽しそうに返してきた。
「…負けても、伝えてもらえるとあり難いんだが…」
確かに負ければゲームオーバーだけれど…遊び終えた後、伝えてもらえればいいだけ。
この年頃の子供には、理解し難かったのか?
苦笑混じりに再度頼めば、クスクスと少女は子供独特の笑い声をあげた。
「負けたら伝えられないよ。だってゲームオーバーだもん」
再度、同じことを口にする。
ふわ、と鼻をくすぐる甘い匂い。
「キミ、ゲームしたことある?」
小さな手を空中に上げて、人差し指を立てる。
真っ黒なマニキュアが塗られた爪を動かして、宙に英単語を書き出した。
D
E
A
D
「主人公が死んじゃったら、ゲームオーバーでしょ?」
〝DEAD〟
「だから負けたら、伝えられないよ」
"死"という言葉を宙に書き出して口にした内容は、なんとも薄気味悪いものだった。
クスクスと無邪気に笑う姿がその内容と見合わなくて、どこか寒気がする。
「…なんの遊びをしてるんだ」
思わず眉間に皺が寄る。
「言ったでしょ。鬼ごっこと隠れんぼだよ」
その言葉通りの遊びなら、"死"なんて直結しない。
「…南は何処で遊んでるんだ?」
こうなれば自分で捜すしかないと問いを変えた。
「それは教えられないよぉ。ボクと南で遊んでるんだから。邪魔しちゃダメ」
「…邪魔はしないよ。様子を見に行くだけだから。遊びが終わったら連れて帰る」
「様子なんて見ない方がいいよ。ティッキー、気に入ったコには意地悪だから」
ティッキー?
それは他にも一緒に遊んでいる子供の名前なのか。
わからないけれど…なんとなく嫌な予感がする。