第58章 ゲームルール
「神田は、あっちを頼む。ゴーレムの無線は入れておいてくれ」
「ああ」
未だ捜していない客船の後方を、神田と二手に分かれて捜す。
手当たり次第、人にも聞いて回ったが南の目撃情報はなかった。
それだけじゃなく。
「子供の乗客がいないって、どういうことだ…」
南が友達になったと言った、13歳程の少女。
そんな年頃の子供は、この船には乗っていないと船員から聞かされた。
南が意味のない嘘を付くはずなんてないし、その少女から貰ったという棒付きのキャンディだって見せてもらった。
着色料を使った、子供向けの水色と白の大きな縞々キャンディ。
あんな物、船の何処かで売られているところは見ていない。
「一体なんなんだ」
今日一日の南の行動を振り返りながら、長い吹き抜けの廊下を足早に歩く。
甘い匂いがしたと神田は言った。
そういえば夕食の時も同じようなことを言っていた。
甘ったるい、胸焼けするような───
「…?」
甘い人工的な匂い。
何処かで嗅いだことのあるような匂いが、微かに鼻を掠った気がした。
せんねんこぉーはぁ、さがしてるぅ~
薄暗い夜の甲板。
微かに聞こえたのは、歌声のようなものだった。
だいじなハートぉ、さがしてるぅ~
高い子供独特の、歌い声。
思わず足を止めて耳を澄ます。
あなたはアタリぃ?たしかめよぉ~
歌声だけで、演奏は何もない。
ただその声が刻むメロディーは、どこか独特で。
なんとなく、薄気味悪いものだった。