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科学班の恋【D.Gray-man】

第57章 鬼ごっこ



「おおおちてる…!?」

「とりあえず掴まってッ」

「どこに!?」



速度を速める落下感に、パニックになりながら声を上げる。
掴まれるバーや取っ手なんて何もない、四角い空間の中。



「──…っ!」



強い力でギュッと抱き込まれた瞬間、ガンッ!と空間は地面か何かにぶつかって強い衝撃を起こした。






───…チンッ






エレベーターが目的の場所に着いた時の、軽い鈴のような音。
まるで間抜けにも思える音を立てて、自動で扉が開く。



「いって…」

「あたた…」



衝撃は強かったけど、これは船内のエレベーター。
そんなに長い距離を落ちた訳でもないらしく、監視員さんが抱き込んでくれたお陰もあってなんとか無傷で済んだ。



「だいじょうぶですか…っ?」

「まぁね。南ちゃんは?」

「おかげさまで、たすかりました」



慌てて見上げれば、腕を緩めてその顔が見返してくる。
砕けたように、ヘラと笑う顔。
赤毛の髪に、緑がかった目。






"怪我、ねぇさ?"






初めての任務で、暖炉の下に落ちた時と同じ。
ラビに庇ってもらった時のそれと、重なった。



「はー…にしても、なんか面倒なことに巻き込まれたような…」

「すみません…」

「あ、南ちゃんを責めてる訳じゃないから。とりあえず此処から出ようか」



開いた扉の外に、どうにかその狭い空間から抜け出す。
どうやらあのAKUMAから逃れることはできたらしい。
抜け出して見えたのは、掃除用具や洗濯機器があちこち並べられた倉庫のような部屋。
多分これは、船員さんが仕事で使う業務用のエレベーターだったんだろうな。



「ありがとうございます」

「いえいえ」



頭を下げれば、監視員さんは笑顔で首を横に振ってくれた。
あのAKUMAは監視員さんに向かって、人間の分際でって呼びかけてた。
ならこの人はきっと、AKUMAじゃないんだろう。

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