第57章 鬼ごっこ
「う、うしろ!きてる…ッ!」
振り返って監視員さん越しに見えたのは、蜘蛛のように無数の足を交互に動かして迫り来るAKUMAの姿。
カサカサと音がしそうなその動きは、気味悪い姿でしかない。
まさに巨大な虫です。
「少し荒いけど我慢ね」
「えっ?」
言うなり、壁にあったボタンを叩く監視員さん。
開いたのは壁に設置された四角い扉。
これ…エレベーター?
にしては、普通のエレベーターより小さいような…
「はい入ってっ」
「わ…!」
普通のエレベーターより小さな四角い空間に放り込まれる。
私だけならまだスペースはあるけど、そこに監視員のお兄さんも入るから、あっという間にぎゅうぎゅうと詰め込まれた。
この監視員さん、結構身長ある…!
「人間ノ分際デ、横取リハ許サナイワヨ…!」
迫り来るAKUMAに、監視員さんが手を伸ばして壁のボタンを再度押す。
するとエレベーターの扉は、左右から機械的に閉じていき。
「待チナサイ!」
大きく振るう蜘蛛のような手。
それが届く前に、扉はぴたりと閉められた。
ガッ…!
「これっこわれたりしませんよね…!?」
「多分っ」
扉の向こうで、刃の付いた手がぶつかる音がする。
座り込む形で四角い空間に入り込んだ、監視員さんの腕に抱えられて焦りながら呼びかけた、その時。
ガタンッ
狭い空間が少し下にずれるような、そんな落下を感じた。
監視員のお兄さん一人でぎゅうぎゅう詰めになるような、小さなエレベーター。
どう間違えても人専用じゃないそれに、重量オーバーなのは目に見えてる。
…嫌な予感が、ひやりと過ぎる。
「わッ!?」
「うおっ」
途端、その空間は支えを失ったかのように。
ガクンッと一気に、真下へと垂直落下した。