第57章 鬼ごっこ
見覚えのある服装に、赤みがかった髪。
「なんだって俺がこんな目に───…」
その目がAKUMAを捉えたのか。
ライターを探す格好のまま、その人の動きが止まった。
きょとんと瞬いた目は、どこか緑がかっている。
…あれ、まさか。
「…かんしいんさん?」
AKUMAの体越しに見えたのは、昼間に出店の前で出会った、あの監視員のお兄さんだった。
「………」
ぽかんと動きを止めたまま監視員さんが見ているのは、この奇妙な蜘蛛のようなAKUMA。
同じく、ぽかんとAKUMAも振り返ったまま監視員さんを見返したまま。
「……お邪魔しました」
くるりと背を向けたかと思うと、監視員さんは今来たドアの向こうに戻ろうとした。
ちょっと待って!
「まって!」
慌てて立ち上がって、AKUMAの体を通り越して駆け出す。
「え?」
私の声が聞こえたのか、監視員さんが振り返る。
やっぱり。
AKUMAが見えてるってことは、私も見えてる…!?
「あれ…南ちゃん?」
緑がかった目は確かに私を映して、それから驚いたように目を丸くした。
「ア!待チナサイ!」
出遅れたAKUMAが、大きく向きを変えて私を追いかけてくる。
「うわっ!?」
「にげて!」
大きく腕を振るうAKUMAに、驚いた監視員さんが後ろに飛び退く。
私はなんとか監視員さんにそれだけ告げて、ドアの向こうに飛び込んだ。
振り返る余裕なんてない。
こんな小さな体で、逃げ切れるかもわからないのに。
「なんで此処に南ちゃんが…というかあれ知り合いっ?」
「ちがいます!というかひとじゃないから!つかまったらころされますよ!」
「え。殺されんのっ?」
驚く監視員さんに声を張り上げて返しながら、ひたすら小さな足で走る。
でもこんな体じゃまたすぐに───
「っわ…!?」
急に視界が上がる。
強い力で後ろから抱き上げられて、一瞬AKUMAかと思った思考は、
「そんなんじゃすぐ捕まるよっ」
頭上でする監視員さんの声に、すぐに止まった。
見上げれば、赤い髪が視界に映る。
私を抱き上げて走る監視員さんが其処にいた。