第57章 鬼ごっこ
「違ウワ。アノ人カラ親切デ、私ニ言葉ヲ教エテクレタノヨ。人間ノ言葉、発音ガ難シクテ苦手ナノ」
…やっぱり班長は優しい人だ。
でもそうなれば、このAKUMAはリーバー班長を狙って近付いた訳じゃないらしい。
…もしかしたら私達が黒の教団関係者だってことは、知らないのかな。
「じゃあなんでわたしが、その"こひつじ"にえらばれなきゃいけないのっ?」
「知ラナイワ。ロード様ノ気紛レジャナイ?アノ方ハ、面白ケレバナンダッテイイ御方ダカラ」
やっぱり。
このAKUMAはきっと、私達が黒の教団の者だとは知らない。
となればなんとか神田を見つけ出せれば、このAKUMAを倒せるかも…!
「あ。」
「…ドウシタノ?」
そういえば神田の六幻、使用禁止だったっけ。
…どうしよう。
「いえ、なんでもないです」
「ソウ?ジャアオ喋リハ終ワリ?」
「ま、まって。かんたんに、おにごっこおわらせていいの?そのロードさまってひとを、たのしませないといけないんじゃ…っ」
「捕マエタラ食ベテイイッテ言ワレテルモノ。面白味ハナイケド、マァイインジャナイ?」
なんかいい加減!
色々と!
思わず尻餅付いたまま後退る私に、AKUMAの蜘蛛のような足が伸びる。
「大丈夫。私ハ子供ヲ痛メ付ケル趣味ハナイカラ、一瞬デ殺シテアゲル。優シイデショウ?」
「そんなやさしさいらないから…!」
「アラ。ジャア痛クシテイイノ?」
「どっちもいやです!」
蜘蛛のような細長い奇妙な足。
その先端には、細かいギザギザの鋭い刃が付いている。
それをゆっくりと私の頭上に掲げると、大きく振り被るように───
ガチャッ
不意に開く扉の音に、それはピタリと止まった。
「ふー…ったく。人使いが荒いっての」
私達がこの吹き抜けに出てきたドアと、同じドア。
其処から疲れた様子で、煙草の箱を取り出しながら現れた人物が一人。
箱から出した煙草を咥えながら、空いた手でライターでも探しているのかポケットを漁る。
それは見覚えのある姿をしていた。