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科学班の恋【D.Gray-man】

第56章 想いの形



南のことを、俺は女性として好いている。
その気持ちは無視できないくらい、大きくなっているのも事実。
でも、俺とあいつは上司と部下。
伯爵との聖戦をしているこんな職場で、簡単に色恋なんてしていいのか。
躊躇する自分がいる。



「別に職場恋愛禁止じゃねーだろ。大事なもんはちゃんと捕まえておかねぇと、取り返しつかなくなるぞ」

「…はは。そうだな」



そう言われて頭に浮かんだのは、ラビだった。
あいつも南のことを大事にしている。
その真っ直ぐな気持ちは、きっと俺と同じだ。



「ったく…本当、お前は昔から変わんねぇな。仕事馬鹿人間だ」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

「バーカ。んな訳ねぇだろ」



呆れたように言うジジに苦笑を返す。
先のことなんてわからない。
もしかしたら、この気持ちを南に伝える日がくるかもしれない。
俺だって、できるなら───…そんな願望はある。

……でも、もし。

この気持ちを伝えて、今の関係に亀裂ができてしまったら。
同じ職場で働いてる者同士、その存在を無視することはできない。
俺には支えたい人がいるから、それだけ見て進むことはできる。
色恋一つで仕事が回らなくなる程、子供じゃない。
でもあいつを…南を、もしそれで無駄に振り回す羽目になったら。
俺は絶対、後悔する。



「…部下なんて好きになるもんじゃねぇな」



溜息混じりに、部屋の天井を見上げる。

建前とか、立場とか、世間体とか。
そんなもん取っ払って、好きなものを好きと言うこと。
それがどんなに簡単そうで、難しいことか。
ドラマや映画みたいな恋愛は、夢のまた夢だ。



「今日船で出会ったあの女性が南だったら、まだマシな恋愛できたかもな」



はじめまして、と声をかけて、全く違う立場で知り合っていたなら。



「お前…それだったら、好きにならなかったんじゃねぇか?」

「…さぁな。どうだろう」



確かに、一目惚れするタイプじゃないが。
もしそれが…南だったなら。

もしかしたら───






バンッ!






しんとした空気を突如壊したのは、荒々しくドアを開ける音だった。

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