第56章 想いの形
「神田?」
「おう、おかえりー」
荒々しく開くドア。
そこに立っていたのは、南に付き添っていた神田だった。
戻ってきたのか。
「あいつは…ッ?」
少し焦ったように辺りを見渡す。
その目は目的のものを見つけられなかったのか、荒々しく舌打ちをした。
なんだ?
「…南は?」
そこで気付く。
南の姿が見当たらない。
「…消えた」
「は?」
「消えた?」
ジジと、その言葉に耳を疑う。
「いきなり消えた。後ろに気配はあった。なのに、急にそれが消えたんだよ」
「逸れたってことか?」
「…多分、違う」
違う?
「あいつの気配が消える前に、甘い匂いがした」
「なんだよ甘い匂いって」
「…胸糞悪くなるような匂いだ」
ジジの言葉に、吐き捨てるように神田が応える。
別に神田は嗅覚に優れた奴じゃない。
それでも眉間に皺寄せて言うその言葉に、偽りなんか見えなくて…なんとなく、嫌な予感がした。