第56章 想いの形
「そーか、そーか。やっぱ俺の勘は正しかったのか」
「なっ…ちょっと待て、ジジ…っ」
「とうとうお前にも春がきたかー。いやー、俺は嬉しいね」
「俺はまだ何も言ってねぇだろ…!」
「その反応で充分。で、見たとこまだ告ってはないみたいだな」
ケラケラと面白そうに笑うジジに、どうにも咄嗟に弁解ができない。
というか、こんな狼狽えてしまって今更弁解もなにもない。
よりにもよって、こんな面倒な奴にバレるなんて…!
「お前、南に変なこと言ったら…!」
「言わねぇよ」
「…は?」
「言う訳ねぇだろ。あいつはお前の気持ち、気付いてないみたいだし。そんな野暮なことしねぇよ」
「………」
「うわ。その目、絶対信じてないな」
当たり前だ。
この歩くスピーカーみたいな奴が黙ってるなんて、普通信じられるか。
「ま。でも俺は嬉しいよ。昔っから仕事しか見てなくて、大事にしたい奴ができたって言うから、誰かと思えばあの室長で。本当に仕事一筋で生きてく奴かと思ってたから」
部屋の天井を見ながら、ジジが懐かしむように呟く。
…ジジの言う通り。
その気持ちは変わらない。
いくら聖戦の為とは言え、表沙汰にできないこともしてきた過去を持つ、黒の教団。
そんな歴史を持つ教団の中で、一人まっさらな気持ちで妹の為に全てを捨てて室長になった人。
コムイ・リー室長。
そして尚、妹だけでなく他のエクソシストや俺達教団内部の人間を守ろうとしている人。
教団を内側から、本気で変えようとしてくれている人。
そんな真っ直ぐでまっさらで馬鹿な人、あの人以外に見たことがなかった。
初めて、ついて行きたいと思った。
初めて、全力で支えたいと思った。
それは今でも変わらない。
「…なんも変わっちゃいねぇよ。俺にとって尊敬できる上司は、あの人で。この教団であの人が上に抗い続けるなら、ずっと支えていきたいと思ってる」
「それはわかって…って、お前」
真っ直ぐにジジを見て言えば、俺の表情から読み取ったのか。
ジジの顔から笑みが消えた。
「…言わないつもりか」
「………多分な」
空いてるベッドに腰掛けて、手元を濡らしてしまったソーダを机に置く。