第55章 ゲーム開始
「なにこれ、せいだいなドッキリとか…っ?」
小走りで廊下を進む。
会う人会う人、誰に声をかけても。
まるで私のことが見えていないかのように、誰も反応してくれなかった。
声をかけても、触れても、何をしても。
まるで私が透明人間になったかのように。
"南の持つ"常識"が、どこまで通じるか見てあげる"
ロードの言葉を思い出す。
もしかして、あれってこういう意味?
だとしても、なんでこんな見ず知らずの船員さんや乗客までロードの遊びに加担しているんだろう。
「そもそも、あのこなにもの…っ」
ぐにゃりと歪んだ空間の演出は、あんな幼い子供じゃマジックでも簡単にはできない。
どこかで大人が加担して一緒になって遊んでいたとしても…この遊びはタチが悪過ぎる。
「そうだ、あのレストラン…っ」
はっと思いついて足を止める。
あの豪華なレストランなら、目立つ船内の中央に設置されてるからわかる。
あそこに行けば24時間空いてるし、きっと沢山人もいる。
このタチの悪いイジメをしない人も、いるかもしれない。
「…いってみよう」
うんと頷いて、方向転換。
目指すはあの豪華船内レストラン。
───だけど。
「わ、っと…ッ」
現実は甘かった。
豪華なあのレストランには沢山の人がいて、案の定活気付いていた。
でも、それだけ。
せかせかと動き回る乗客もスタッフさん達も、誰も目を止めてくれない。
おかげで遠慮なく歩き回る人達の間を、避けながら進むのが精一杯。
これイジメにしては絶対タチが悪過ぎるよね…!?
「り…リーバーはんちょう…!ジジさん!かんだ…ッ!」
声も無視されるなら、もういっそのこと大声を出してやろうと思い、両手を口元に当てて辺りに呼びかける。
それでも私に目を向けてくれる人は一人もいない。
「っ…なんで…」
こんなに沢山の人がいるのに、まるで一人孤立している気分になる。
まるで私だけ一人、別の世界にいるような───
とんっ
愕然と止まってしまっていた体に、後ろから何かが軽くぶつかった。