第54章 友達のお誘い
「ロード…っ」
慌てて駆け寄る。
一歩間違えれば後ろの海に落ちてしまう、そんな不安定な場所に座って、それでもロードは顔色一つ変えずに笑っていた。
「やっほー、南。また会ったね」
「よかった、みつけられて」
ひらひらと片手を振る姿は、去り際の無表情さなんてなくて、いつものロード。
その姿に少しほっとした。
「…ボクを捜してたの?」
「うん。ごめんね…あそび、つきあえなくて」
頭を下げて言いたかったことを口にすれば、きょとんとその猫目を瞬く。
首を傾げたかと思えば、ケラケラとロードは可笑しそうに笑った。
「南って面白いねぇ。わざわざそんなこと言うために、捜してたなんて」
「だって…」
私が思ったより、この子は気にしてなかったのかな。
ぽふぽふとその少女の小さな手が伸びて、私の頭を撫でる。
「可愛いね、南って。そういう真っ直ぐな人間、ボク嫌いじゃないよ」
〝人間〟
ロードの言い方は、どこか人に一線を引いてるようで多少引っ掛かる。
まるで違う生き物を見ているように。
「でもそーいうコ程、虐めたくなるんだよねぇ」
頭から離れる手。
両手をくっつけて、自分の顎を支えるように膝の上で頬杖ついて。
にっこり笑う顔は、可愛い女の子。
「ボク、Sだからさ~」
だけどその口から発した言葉は、思いっきり容姿とは相反するものだった。
うわ…嫌だな。
こんな可愛い顔でS発言する、小さな女の子って。
「…わたし、Mじゃないんで」
「そう?益々ボク好みだね。虐めて喜ぶコなんて、楽しくないでしょ?」
ごめんなさい、やっぱりMでいいです。
「ねぇ、南。わざわざ謝りに来てくれたんだし。今度はボクと遊んでくれる?」
こてん、と可愛らしく首を傾げて問い掛ける。
その姿は愛らしいものだったけど、さっきのS発言にどうにも簡単に頷けない。
「でも、ひとをまたせてるから───」
逸れたら、きっと神田に怒られる。
そう思って神田がいた甲板の階段に目を向ければ。
「大丈夫。ここにはボク達しかいないから」
其処に、見知ったあの背の高い後ろ姿はなかった。