第54章 友達のお誘い
え、嘘。
慌てて辺りを見渡す。
さっきまで、其処にいたのに。
ついて来ない私に、神田が気付かずに行ってしまう訳ない。
…もしかして、本当に怒らせちゃったのかな。
「ほぅら、そんな悲しい顔しないの。大丈夫だよ、あのコは南を置いてった訳じゃないから」
「?…どういういみ?」
まるで見透かしたように、ロードが笑って優しく声をかけてくる。
恐る恐る見上げれば、にっこりと可憐に笑う。
でもその真意をロードは口にしなかった。
「それより、ボクと遊ぼ。鬼ごっこと隠れんぼ、どっちがいい?」
「それより、そのいみを───」
「え?両方?仕方ないなぁ、特別だよ」
「ってはなしきいてください」
綺麗に私の言葉をスルーして、ロードが指を二本立てる。
大体鬼ごっこと隠れんぼを、どうやって同時にやるんですか。
「鬼ごっこの鬼に捕まったら、南の負け。隠れんぼでボクを見つけたら、南の勝ちだよ」
「おになのにかくれるの?それじゃあ、あそびはむりなんじゃ…」
「南の持つ"常識"が、どこまで通じるか見てあげる」
「え?」
危うい柵の上に、器用に座ったまま。
にこにこ笑ったロードの姿が、ぐにゃりと歪む。
え、何。
思わず目を擦れば、そんな自分の手さえも。
ぐにゃりと、歪んだ。
「っ…!?」
ぐらぐらと地面が揺れる。
まるで大きな地震のようだけど、そんな揺れは体に襲ってこない。
視界だけが、ぐにゃぐにゃと歪んでいく。
「ゲームオーバーにならないよう、頑張ってね~」
ひらひらと手を振るロードの余裕な姿だけが、異様にその場にミスマッチに映って。
瞬間。
「わ…っ!?」
大きく歪んだ景色が、まるで飲み込むように私の体に覆い被さった。
そこで、視界は一気に暗転した。