第53章 友達の印
「あ、ごめんね。知らない人に話しかけられたら驚くよね」
辿々しく返す私に、怖がられてると思ったのか。
お兄さんは首に掛けてるネームプレートを掲げて見せてくれた。
「俺、此処で監視員やってるからさ。お客さんのチェックしてるんだ」
成程。
確かにそれは、此処の監視員を表す証。
…やっぱり私、迷子と思われたんだ。
「だいじょうぶです。おや、ちかくにいますから」
「そっか…ならいいんだけど」
そう告げれば、腰を上げてお兄さんの手がぽんぽんと私の頭を撫でる。
見下ろしてくる目は、どこか緑がかっている。
…本当、ラビに似てるかも。
「………」
ラビなら、こういう遊び場好きなんだろうなぁ…。
一緒に遊べば誰よりも喜ぶ気がする。
そう思うと、この場にラビがいないことを少し残念に思った。
きっと満面の笑みで遊んでくれるだろうし。
こっちまで元気を貰える、あの屈託ない笑顔は結構好きだったりする。
「一応、名前だけ聞いていいかな。念の為」
「…しいなみなみです。みなみがファーストネームで…」
「へぇ、チャイニーズかな?」
「…にたようなものです」
説明は面倒だから省いておこう。
監視員のお兄さんに捕まってる姿なんて、ジジさんに見つかったらからかわれそう。
「うん。じゃあプール楽しんできて」
気さくに笑う監視員さんに頭を下げて、二人の元に戻ろうと体を反転させた。
「…あ」
その視界に入ったのは、プールに隣接しているカフェテラス。
その中で椅子に座って、本を手にしていたのは───…リーバー班長だった。
そういえば読書中だってジジさんが言ってたっけ。
…声、かけてみようかな。
「リー…」
そう思い小走りに駆け寄ろうとして、私の足を止めたのは顔を上げた班長が浮かべた笑顔だった。
「…あれ、」
班長が笑顔を向ける先。
其処にいたのは、知らない女性だった。
大人びた、物腰の柔らかそうな綺麗な女性。
班長の横の机で同じように読書をしていたのか、その手には本が握られている。
此処から話し声は聞こえないけど、楽しそうに話しかけていた。
……誰だろう。