第53章 友達の印
「もしかして、あれ南ちゃんのご両親?」
不意に後ろから監視員さんの声がする。
ご両親って…あの二人、夫婦に見えるのかな。
そう思うと、少しだけ胸がツキンとした。
…あれ。
最近は班長との距離を、どこか近くに感じるからか。
リナリーと班長が一緒にいても、胸は痛まなくなってたのに。
「ご両親があそこなら、一人でプール遊びしてたの?」
「あ、いえ───」
「こーらっ」
「わっ!?」
問い掛けてくる監視員さんに慌てて首を横に振りながら振り返れば、其処には何故かジジさんのドアップがあった。
び、吃驚した…!
「いやーあ、すみませんね。うちの娘が」
「はぁ…南ちゃんのお父さんですか?」
「はい。フォークを取りに行かせたら、中々帰って来ないもので」
「遅ぇんだよ」
ぐりぐりとジジさんが私の頭を撫でながら、監視員さんに笑顔で返す。
様子を見に戻ってきたのか、其処には呆れ顔の神田の姿もあった。
「それなら、いいんです。よかったね、南ちゃん」
「ぁ…はい」
ぽん、と私の頭に手を置いて人懐っこい笑顔を向けた後、監視員さんはあっさりとその場を後にした。
「南、お前…子供の癖にナンパされるとはやるな」
「ちがいます」
どこをどう見たって、迷子に声かけてる監視員さんだったでしょう。
「ん?どした、そのキャンディ」
「…しらないおんなのこにもらって。おともだちのしるしにって」
「なんだ、同年代の友達ができたのか?よかったなー」
「だから、ちがいます」
同年代じゃないです、完全に私を子供扱いするのはやめて下さい。
ジト目でジジさんを見上げていると、不意にさっきの光景を思い出す。
思わずちらりと見た先は、さっきのカフェテラス。
「そういや、さっきなに見て…ありゃ」
そんな私の視線を追ったジジさんは、きょとんとその眼鏡の奥の目を丸くした。
「…まさかのあっちは逆ナンとはな」
だから、なんでもナンパで括るのやめて下さい。
違います。
…多分。